オノユウリ「美術館で働くということ」を読む

 美術館の裏側で働く人のことを知りたいと思っても、意外に情報が少ない。この本はマンガ。東京都現代美術館学芸員にして漫画家、という変わったポジションにいる女性がごく初歩的な裏情報を説明したものです。学芸員というとえらくマジメな職業人をイメージしてしまうけど、中にはこんな職員さんもいるのですね。


学芸員には主に三つの役割があって、展覧会を企画する人、常設展の企画や作品の収集、管理をする事業係、そして、外部に宣伝したり、教育普及を担当する人、に分かれます。ま、一番やりがいのあるのは企画係でせう。そのぶん、苦労も多いみたいですが。


企画展は美術館の幹部や外部の識者が提案するものだと思ってましたが、そうではなくて、基本的に学芸員が企画、提案するそうです。それも、ベテラン中心ではなく、入社数年の新米でも提案できるというから、けっこうオープンな職場です。むろん、思いついてすぐ提案なんてことはさすがになくて、普通は数年かけて温めた案を提案する。本書では、8年かかってようやく実現できた企画展という例も紹介されるから、気の短い人には不向きな仕事です。


べつに、売上げのノルマなんてないけれど、自分の企画した展覧会は、人気や来場者数がものすごく気になる。何年も準備に費やしたのに開催したらガラ~ン、ではショックです。私たちがなにげに訪ねる展覧会も、学芸員さんは裏で客入りに一喜一憂しているのです。

 

 館が収蔵品を選ぶときも学芸員は自分の目にかなった作品を推薦することができます。ここはモロに審美眼が試される場面でせう。もし、購入が決まったら、その作品には我が子のような愛着を感じる。当然です。


会場で作品のレイアウトを決めるのも学芸員の仕事です。これって、相当経験を積まないとスムースに進まない仕事ではと思います。レイアウトの上手、下手でお客さんの印象、感銘度に影響するからです。それに、作品の解説文書きも仕事ですから、作文の苦手な人は苦労します。

 

 はた目には地味でラクそうな仕事に思える学芸員ですが、実際は月100時間残業もありや、という場面もあるらしい。それに現代アーティストというのは変人が普通だから付き合いもしんどい。社交のセンスも求められるわけです。NHK Eテレ日曜美術館」に出て来る学芸員も、みなさん見識が高くて話し方も上手な人ばかりです。一流の美術展には一流の学芸員がついている。ゆえに安心して鑑賞できるわけです。(2015年 KADOKAWA発行)

 

f:id:kaidou1200:20211210073502j:plain