北と南  ミュージアム巡りの旅 (11)

 

熊本県立美術館
 熊本城内の二の丸、静かな森のなかにあり、昨日訪れた福岡市美術館と同じく、前川國雄の設計。高さを樹木より高くせず、森に埋もれたようなたたずまいです。ここでも常設展のみ拝見。

ランチはテラスでコーヒーとサンドイッチを
熊本美術館 


 細川コレクションの部屋に入って最初に目に入ったのが、横山大観の「焚き火」。おおーーっ、目が点になりました。まさか、ここで出会えるとは。疲れがいっぺんに吹き飛びました。

 

 今まで作品の感想などかいもく書きませんでしたが、ここではウンチクを少々。題名は「焚き火」とあるけど、これは「寒山拾得図」の横山バージョンです。寒山拾得とは人名で、寒山(かんざん)と拾得(じっとく)という男の名前。実在したのかしないのかはっきりしない、おそらくは伝説の人物で、世俗を避けて山の中に住み、食うや食わず、衣類はボロボロという、ホームレスふうの人物でありながら、実は高僧だった、思想家だった、いや、仏の化身だといろいろ解釈されています。


この、外見は乞食同然である・・しかし、実は偉大な人物かもしれないという、なんか、ようわからん人物像が絵描きたちの想像力を大いに刺激しました。ワシならこんな人物に描いてみせると、いろんな寒山拾得像が生まれました。「焚き火」は横山大観が「ワシならこう描く」と想像した寒山拾得の姿です。駄目男のお気に入りは、右側、拾得のなんともいえない笑みの表情です。陰影をつけない日本画で、よくぞこんなに微妙な表情が描けたもんだと感心し、惚れてしまったのです。(何十年も昔のことです)また、これが最もエレガントな寒山拾得像ではないか、と思っています。


興味深いのは、かの伊藤若冲も曽我蕭白も自己流の寒山拾得像を描いていることです。当然ながら、個性強烈、ここまでやるか、と感心する、自由な発想です。彼らが寒山拾得をどれほど理解していたのか分かりませんが、若冲の、二人を童子の姿にした絵は、もう四次元的に飛躍したというしかない。なんか、一瞬のひらめきでパパッと筆を走らせた、そんな感じさえします。(同じ作者の別の寒山拾得図もあります)


曾我蕭白の絵は、昔、京都国立博物館で見て強烈な印象を受けました。横山大観のエレガントな描き方に比べたら、同じ人物とは思えないボロボロぶりです。こんなふうに描いてなお尊敬や畏怖の気持ちを込めているのか、それとも逆に皮肉や貶める意図で描いてるのか、よく分からない。かくいう自分も寒山拾得の何たるかは不勉強で、たんなる印象に過ぎないのですが。しかし、このテーマは本当に面白い。これだけを集めた「寒山拾得大集合展」という企画展を催してほしいくらいです。

(注)横山大観も、同じ「焚き火」というタイトルで別の寒山拾得図を描いてることがわかりました。豊田市美術館所蔵の「焚き火」です。発想が自由にできるぶん、これでキマリ、という自信作も描きにくいのかも知れません。


横山大観の「焚き火」 左が寒山、右が拾得。寒山拾得をどのように表現するのかは全く自由ですが、唯一のキマリとして寒山は「巻物」拾得は「箒」をもつことが条件になってるみたいです。
熊本美術館 


曾我蕭白が描いた寒山
熊本美術館 


同じく拾得
熊本美術館


伊藤若冲が描いた寒山拾得
熊本美術館


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鹿児島市立美術館
 熊本から1時間くらいで鹿児島中央駅着。小樽から延々2700キロの列島縦断旅、8本の特急列車を乗り継いで、ここで終了です。改札の係員に「このキップ、記念に残したいのですが」というと、検印して返してくれました。これが一番のお土産になりました。


市電に乗って城山公園の近くまで行き、市立美術館を訪ねます。もう築40年くらい経つのですが、石貼りの堂々たる構えの建物です。
 どこの美術館でも、常設展が混雑するってことはあり得ないので、一人で借り切りみたいな贅沢な鑑賞ができます。海老原喜之助、和田英作シスレー、ルオー、ピカソマリー・ローランサンカンディンスキーなど、地方の美術館にしてはよく集めたなあと思いながら鑑賞しました。


鹿児島市立美術館

鹿児島8日 

エントランスホール
鹿児島8日 

パブロ・ピカソ「女の顔」1943年

鹿児島 

マリー・ローランサンマンドリンのレッスン」1923年
鹿児島 


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安くて美味しい「かごっま屋台村」
 ホテルで洗濯と風呂を済ませて、どっか安い酒場ないかしらんとフロントに行くと「かごっま屋台村」のパンフがあり、徒歩10分くらいで行けそうなので、ここに決まりです。雨が降り出したので近場がいい。全10日の行程中、傘をさしたのは、この酒場往復の30分ほどで済み、とてもラッキーでした。

 

 雨降りだからがら空きのはずと想像して行ってみれば、なんと大繁盛でどの店も満員御礼状態。ようやく丸イス一つが空いてる店を見つけ、スミマセンネ、皆さん、な感じで割り込ませてもらいました。こんなに窮屈な酒場って近頃経験したことがない。でも、新しいのに「場末感」ふんぷんというのが好ましい。ふと「こんな狭い、ぐちゃぐちゃの配置、消防法でアウトちゃうか」の疑問が湧きましたが、ビール飲むとすぐ忘れた。

 ぎゅうぎゅう詰めなので、お皿一枚置くにも隣客にスミマセンネ。だから、自然に会話がはじまります。青森の酒場でもそうだったけど、メニュー見てもなんの料理か分からないのがあります。隣のおっちゃんに尋ねて、注文して、すごく美味しかったのが「首折れ鯖の刺身」でした。屋久島の沖合で一本釣りしたゴマサバを血抜き(活け締め)したものです。トロふうの食感で、ナマの鯖ってこんな味だったのかとカルチャーショックを受けました。日頃、食べ慣れている「しめ鯖」や「塩鯖」からは想像できない味と食感です。


この「かごっま屋台村」は珍しくNPO法人の運営で、開業に際してはいろいろアイデアを盛り込んで「共存共栄」を意図したという。たとえば焼酎のお湯割りは全店一律200円にして過当競争をふせぐとか。鹿児島へ旅する方おられたら、晩メシはぜひ「かごっま屋台村」へ。ラーメンやおでんの店もあります。(6月8日)



この場末感が気に入りました。ショボショボ降る雨も雰囲気を高めます。
鹿児島8日 

人生最初で最後かもしれない「首折れ鯖の刺身」を賞味
鹿児島 

豚足
鹿児島 

にぎり寿司 左・きびなご 右・とびっこ(トビウオの卵をイクラふうに味付け)

焼酎は姶良の白銀酒造のナントカをロックで。
鹿児島