下重暁子「家族という病」を読む

 よくもこんなにイヤミな題名をつけたもんだ。まあ、幻冬舎らしいセンスも感じますけどね。でも、この題名に惹かれて買った人も多いと思う。ヒットしたのかどうか知らないけど、中身より題名のインパクトで売れたこと確かでせう。著者、下重さんはNHKのアナウンサー出身らしいけど覚えていない。


一家団欒という言葉に象徴されるような「幸福な家庭」なんて本当にあるのか。幸せぶってるだけではないか。という根源的な問いから著者自身の生い立ち、人生を振り返って、自分は幸福な家族の一員ではなかったと断じる。父は軍の高官だったので経済的に困ることはなく、母にも溺愛された、という境遇からみれば「食うのに精一杯」な庶民にはとても贅沢な、幸せな家族に思えてしまう。幸福の次元が違うのであります。


真に自立した人生を送りたければ、家族のしがらみを捨てよ、と説くのでありますが、インテリで、実際、自立できている著者だから言えるのであって、シモジモの民は共感できないでせう。ただ、著者も言うように、現代の家族における不幸、親殺しや子の虐待死事件の増加は家族における「病」の増加であり、家族であるゆえに解決が難しい。


・・というわけで、なかなか著者の家族論にはついていけないのでありますが、世間づきあいという点まで見方を広げれば納得できることもあります。でも、著者のような洞察力の高い人とつきあうと、自分は常に観察されてると負い目を感じてしまいそう。本音を言うと、自分とちょぼちょぼの、スキマだらけの人間と付き合うほうがよほど楽しい。(2015年 幻冬舎発行)

 

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