野坂昭如「火垂るの墓」を読む

  著者の少年時代の実体験をもとに書かれた短編で、文庫版でも34頁しかない。しかし、本作品は「アメリカひじき」とともに直木賞を受賞した。新潮社で文庫化され、昭和47年以来76刷と地味ながら長く読み続けられたロングセラーです。尤も、人数でいえば、本を読んだ人より、アニメで観た人のほうがずっと多いような気がする。アニメは観たことがないので、出来栄えはわからないけど、著者と同世代の、つまり、戦争の記憶がある人は原作を読むほうがずっと共感しやすいはずだ。


ところで、この本を読んだ動機は作品自体の評価とは別のところにあります。産経新聞の文化欄「道ものがたり」で本書がとりあげられ、作品の舞台になった神戸市灘区界隈を紹介しています。ライター、福島敏雄が注目したのは「作家はどこまでウソが許されるか」という、なんだか穏やかでない話です。もちろん、小説=フィクションだからウソが当たり前であること前提にしつつ、本書以外の自伝的作品におけるウソの記述に首をひねる・・というルポです。


著者の14歳時の空襲体験は作家としての原体験であって「火垂るの墓」以外の作品でも度々語られている。ただ、その生い立ちや人間関係の記述が安定しない。そんな細かいこと、どうでもええがな、と思うのですが、ライター、福島氏は気になったらしい。また、著者自身、晩年になって今まで「自伝」として書いてきたことにウソが多かったことを認めるような発言もある。


最後に、野坂昭如ペンネームで、本名は「張満谷(はりまや」という変わった名前だった。そして神戸市中央区春日野の墓地に代々の墓があって、毎年6月(空襲を受けた月)に墓参りに出かけたと「ひとでなし」という作品に書いている。


福島氏は春日野墓地に出かけて墓を探した。管理事務所でも登録簿を調べてもらったが、張満谷という名の墓はなかった。だからといって、戦争を描いた文学作品のなかで傑作といわれる「火垂るの墓」の評価を貶めることにはならない。それを認めつつ、ライター氏は「作家の倫理」に一抹の不信感を抱いて文を閉じている。


火垂るの墓」の舞台を訪ねる
http://www.hyogonet.com/drama/hotaru/index.html


アニメ制作では小説で描かれた神戸や西宮の現地をロケして、かなりリアルに風景を再現しているらしい。上記のブログでその説明があります。下の写真は、14歳の主人公、清太と4歳の妹、節子が意地悪な親戚の家を出て、池の畔に穴を掘って暮らす場面に出て来る「ニテコ池」。ここでたくさんの螢を見た。節子はこの穴で餓死し、一ヶ月後、清太も三宮駅構内で、誰にも看取られずに餓死する・・という筋書きになっている。


ニテコ池 遠くの山は甲山

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●半畳雑木林秋景

 日当たりの悪いベランダにも秋が訪れて葉が色づきました。樹はセンダン、ザクロ、ムクロジシマトネリコ(これは常緑樹)

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