百田尚樹「モンスター」を読む

 この作品、映画化されたそうだが知らなかった。不美人がトコトン整形手術を施して抜群の美人に生まれ変わる。そして、不美人時代に軽蔑、嘲笑した男や世間へ復讐を始める。しかし、一人だけ憎めきれない、恋心を抱いた幼友達の男がいて・・。


著者、百田センセは整形美容のハウツーを相当勉強したらしく、小さな「二重まぶた」の手術から、アゴを外して顔の外形を変えてしまう大がかりな手術まで丹念に説明してくれます。むろん、リスクや副作用もあり、それを承知で美人をめざす心情は男性にはなかなかわかりにくいが、美人になることでヒエラルキーを上げることができるのはほぼ間違いない。生まれつき美人の類いなのにそれを生かさない女はアホだとヒロインは言う。


ヒロインは事件を起こして家におれなくなり、家族と絶縁。そして、いつのまにか世間では事故で死んだことになってしまう。整形手術で人相を変え、名前も変えたらもう別人だ。さあ、復讐するは我にあり
 これでバッチリ、という満足できるまでの整形手術に1000万円を投じた。そんな大金、真面目な仕事で稼げるはずないからフーゾクに身を落として必死に貯金し、30歳をまえに2億円貯めた。物語はここからはじまる。


不美人時代と超美人の今、二つの体験をしたヒロインは、あらためて「美人はこんなにトクするのか」を実感する。街を歩いても、買い物をしても、レストランへ行っても、まったく扱い、もてなしようが違う。但し、美人ぶりをひけらかすのはサイテー、おとなしく、控えめの身のこなし、遠慮がちな話し方・・といったサイドのテクニックも必要だ。出会う人の全てが羨望と尊敬の眼で見てくれる。かくして夢は実現した。復讐も果たした。しかし・・あっけなく死んでしまうのであります。


本書が語るに、フーゾクで働く若い女の子は普通に整形する。美人になりたいためもあるが、人相を変えることで過去の容貌を消し、他人の顔になることで正体がバレないようにする。ウン悪く身内や友人に出会っても気づかれないことでのびのび仕事ができる。なるほど、整形にはこんなメリットもあるんだ。
 そして、足を洗って堅気の暮らしにチェンジするときは元の顔に近い容貌に戻すため、再度手術する。これでフーゾク歴を外見で消すことができる。AVに出演する場合は整形手術による人相のチェンジは必須だそうだ。(親が見たってバレないくらい整形しておく必要がある)


巻末の解説を整形しまくりの中村うさぎが書いていてホンネぶっちゃけ、なかなか楽しい。「人を外見で判断してはいけません」なんてエラソーに言う男も、美人を前にすれば全員メロメロになる。例外はないと。(2012年4月 幻冬舎文庫発行)


<追記>
  不美人を美人に変身させる技術の素晴らしさは分かりました。しかし、一つ気になることがある。整形美人になって結婚しても、生まれる子供は整形前の容貌をコピーするのが普通だから、これはこれで難儀な問題になる。美しい母親とぜんぜん似ていない子供の顔。ダイジョーブかい?
 整形したことをぜーんぶ彼に話して、整形前の写真も見せて「了解」を得ておけばいいが、隠したまま結婚すると・・疑われる可能性大でありませう。DNA検査しよう、なんてことに至れば信頼関係ガタガタになります。検査で〇となっても疑心暗鬼は簡単に消えない。よって、老婆心で言えば、せいぜい数十万円くらいの投資で変身するのが無難ではないでせうか。整形美人は賞味期限が短いというのも大難儀です。

 

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