森まゆみ編「森鴎外珠玉選」を読む

 ときに、子供じぶんに読んだ短編の名作を読む。今回は弱視者用の大活字本で「舞姫」「山椒大夫」「高瀬舟」ほかを読んだ。一番の魅力は読後のしみじみ感。「高瀬舟」を読むのは三回か四回目だけど、毎度思うのは「もうチョット先まで書いてもらえまへんか」という勝手な願望。なんか,映画のラストシーンを見逃してしまったようなもどかしさを感じる。あと1頁か2頁足して不幸なドラマにオチをつけてほしい。(そんなサービスは不要、現行のママが最良というのが世評だと思いつつ)


舞姫」は鴎外の青春時代の体験をもとに書いた恋愛小説ですが、相手の女性が帰国した鴎外を追って日本へ来たというから、ちょっとした事件です。しかし、恋は成就しなかった。(森家が許さなかった)それは仕方ないとしても、鴎外はこれをネタにして他人事みたいに小説を書き、世に問うのだから「鴎外、お前もワルよのう」と、誹りたくなります。


山椒大夫」は江戸時代の説教節「さんせう大夫」を鴎外流にリメイクした物語。高貴の家族が一家離散の目に合う話ですが、ネタになった「さんせう大夫」はえげつない残酷物語で、それは因果応報、地獄極楽のさまを庶民に分かりやすく説くための演出と思われる。


鴎外は、これじゃ世間に受けないと筋書きや表現を大きく変えた。そのさじ加減が良かったのか、今日は教科書に載るくらいの名作と評されています。もし、別の作家が別の解釈でリメイクしていたら「名作」たりえたか分からない。(2013年 講談社発行)


金正恩は現代の「さんせう大夫」
 現代感覚でいえば、山椒(さんせう)大夫は北朝鮮の独裁者、金一族と言えます。なんの罪もない少年少女(安寿と厨子王)を拉致し、こき使う。反抗すれ半殺し、なぶり殺しにする。作り話とはいえ、拉致被害者の関係者は辛くて読めない物語です。場所の設定が越前や越後など日本海側の海岸や島になっていることも耐えがたい。


説教節によれば、悪の権化「さんせう大夫」は当然、報いによってこれ以上無い残酷な殺され方をする。しかし、鴎外の「山椒大夫」はぜんぜん違って山椒大夫(金一族)と報復者(厨子王)は妙な妥協をしてしまう。金は殺されないという結末です。厨子王と山椒大夫を日本政府と金正恩に置き換えれば、昨日今日の現実世界ではありませんか。

 

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