櫻井よしこ「GHQ作成の情報操作書「真相箱」の呪縛を解く」   ~戦後日本人の歴史観はこうして歪められた~

 なんとも長い題名の本であります。本文も長くて444頁もあります。長いのはかまわないが、読み進めるほどにユーウツになる本であります。ま、楽しい内容でないこと、題名見たら想像つきますけど。


日本の歴史上、はじめて味わった「敗戦」。それだけでも大ショックなのに、続いて、勝ち組が負け組である日本国民を「洗脳」するというオマケがついた。日本という強力な国家が二度と米国や連合国に刃向かわせないために。


その洗脳がいかに巧妙に行われたか、「真相箱」というラジオ番組を例に挙げて説明しているのが本書です。著者は、昭和20年代に放送されたこの番組の紙資料を入手し、ほぼ全部を活字で再現した。具体的な内容は、下の写真の目次の通りで、戦争が起きたいきさつ、日本政府の内部体制、開戦時の混乱、そして戦時中の具体的な丁々発止と終戦における日本の扱われ方がQ&A式で書いてある。


そんな、まっとうな内容がなぜ洗脳?・・いわずもがな、まるで日本人が書いたかのような内容、表現にみせかけて、実はアメリカ側の思想、判断で書かれている。といっても、露骨に日本を貶めるような書き方ではないので、無知な人が読むと、すんなり納得してしまうような、巧妙な作文になっている。それも全文がそうではなく、一部は、ごく客観的に、つまり日本にも優れた点はあるみたいな書き方もされているので、かなり厄介であります。現代史に無関心な、50歳くらいまでの人が読めば、100%騙されるでせう。


このラジオ番組が、1946年から3年も続いた。その前に「真相はこうだ」という、もっと露骨な日本ダメ論的内容の放送もあり、のべ4年にわたって洗脳番組が放送された。むろん、日本人みんながこの放送を聞いたわけでなく、そもそもラジオの無い家庭が普通にあった時代だから、今のテレビの視聴率何パーセントふうにいえば、聴取率は少なかったといえる。


こんなラジオ番組だけでなく、GHQはあらゆる手段を講じて日本人の洗脳、思想改造を試み、結果的には成功したといえるでせう。その成功の延長上に今の日本がある。成功の例をいえば、ポツダム宣言の解釈や東京裁判終戦時のソ連の突然の参戦、広島、長崎への原爆投下の賛否について、多くの日本人が事実の認識すらできていないことがある。これらの問題について、誰からどんなことを教えられたのか、自分はどう考えているのか、明快に述べることが出来る人は少ない。


終戦時に20歳~30歳だった、知識吸収力の強い人が結婚し、生まれたのが現在の団塊の世代。しっかり洗脳された親が戦前の思想や道徳観を伝えるはずがない。なにはともあれ、彼らに共通しているのは「戦前の全否定」だった。コレですべて事足りる。吟味や反省は無用、戦前の日本を全否定することが考え方の出発点になった。もっと年長の世代だって同じで、戦前の日本は明治以来、民主主義など無かったかのような物言いをする人が多い。


・・・と、ぐだぐだ書き続けてもキリがないので、最後に205頁の著者の解説文を引用しておしまいにしませう。(茶色文字が引用文)


 GHQは日本を占領した翌1946年、27名の教育使節団を米国より呼び寄せた。彼らはわずか一月の滞在で、日本の教育に関する報告書をまとめた。軸になったのが「古い日本の教育の否定」であり、米国流の徹底した民主化だった。
 そして戦後の教育がどのような結果をもたらしたのか、私たちはすでにその欠陥に気づいている。軍国主義を否定するあまりに、過去の歴史や伝統や家族のあり方までをも全否定するかのような教育によって、私たちの社会が根っこの外れた草のように頼りない存在となっていることも認識している。


GHQの行った行政のなかで、恐らく最も憎むべきは、この戦後の教育行政であろう。日本人を日本人として慈しみ、育んできたこの国の伝統や価値観を破壊して自由と権利を主軸においた。慎ましやかに自分で責任をもって人生を築くことは軽んじられ、もっぱら自己主張を強くすることが是とされた。
 教える側と教わる側に区別はなくなり、人間の平等のみが強調された。学ぶのは、量は少なくても良い、学ぶ方法さえ知っていればよいとして基礎学力を軽視した。漢字を教えず、ローマ字のみを学ばせることまで検討された。そうした方針が現在の愚かなゆとり教育に表れている。


私たちは、軍国主義に走った社会と時代を念頭に、あのように誰もが同じ意見になって誤れる熱狂に走らなくて済むように、しっかりと自分の頭で考える子供たちを育てるために、日本の教育を作りなおして行かなければならない。(2002年8月発行 小学館文庫)


■GHQ・・・General Headquartersの略で「総司令部(連合国最高司令官総司令部)」を意味する。終戦時からの親分はD・マッカーサー元帥。