読書感想文

冨野治彦「円空を旅する」を読む

 日本の歴史上でスーパーマンと言える人物3人を挙げよ、と言われたら、空海役小角円空、の名をあげます。身体能力抜群のうえに霊感をまとった超俗の人、という条件で考えるとこの三人です。と、いいながら、円空については皆目知らないので本書を読みました。三人のなかで最も新しい時代に生きたので情報もたくさんあるのですが、それでも「?」がけっこうある。出自、生い立ちについても諸説あってよくわからない。


「わしは生涯に12万体の仏像を彫るぞ」と言って全国行脚し、大は2mくらいの大作から、2,3センチの、キーホルダーみたいな小さい「木っ端仏」まで彫りまくったのであります。12万を数えた人がいるのか不明ですが、現在でも5000体くらいの像が残っているから、12万はホラ、ハッタリとも言えない。・・と、書きながら、円空さん自身、ちゃんと数をカウントしたのかしら、と素朴な疑問も湧きます。(10万目に達した、という本人の墨書きがあるので、本当に数えていたかも)


なにしろスーパーマンですから、新幹線も自転車もないのに、北海道から東北、関東、東海、近畿まで、歩きに歩いて、かつ現地で彫刻作品を残した。宿なんかなくても、洞窟や崖下で雨露をしのいだ。霊感を得るために厳しい山登りもいとわず、青森の恐山や大峰の山上岳にも登っている。美濃生まれの円空だから、伊吹山は「ふるさとの山」だった。


経歴はさておき、円空作品の魅力は、伝統様式や時代感覚にとらわれない優れた造形力にあります。木を見つめ、木のクセを読んでイッキに鉈(ナタ)で彫り、刻む。作業をはじめたら最後までノンストップで掘り続ける、という感じです。ゆっくりと、丁寧に・・の真逆の制作方法だと思います。そのスピード感や力強さが造形に反映される。300年前の制作とは思えないモダン感覚が観る者を魅了します。


円空は彫刻作品制作だけでなく、約1600首もの歌を詠んでいる。12万の仏を刻み、1600の歌を詠み、経典にも詳しい・・のであれば大変な教養人でもあります。いったい、どこでそんな修養を積んだのか。空海とともに、スーパーマンの上に「インテリ」の冠を載せてもいい偉人です。1695年(元禄8年)64歳で没。(2005年 産経ニュースサービス発行)

 

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